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■ web連載小説 江ノ島ベイビィ● 第1回

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 鎌倉を目指したのは、JR乗り場へと向かう池袋で、生ギターで弾き語りしていた「失恋旅行で鎌倉の海へ来た」というような歌をたまたま聞いてしまったからだ。本当に偶然、聞いてしまっただけで、弾き語りや、その弾き語りをしていた人に興味があって足を止めたわけではない
 音楽は多分、平均的な女子高生として平均的な量を平均的に聴いていて、iPod nano(携帯用の音楽再生装置の名前)も持っている。マカー(パソコンには大きく分けるとウィンドウズとマッキントッシュの二種類があって、マッキントッシュの愛好家をマカーと呼ぶ)ではなくてドザー(ウィンドウズを使っている人のこと)だけどiPod nanoを使っているからiTunes(パソコンで音楽を再生するソフトの名前。iPodに音楽を転送出来る)を使っている。好きだけど、マニアではない。楽器は弾けないし持っていない。ボクの音楽の趣味は、中学の頃の同級生の男子に言わせると「女の子にしては激しいのが好き」らしい。うかつにも大声でそんなことを言ってしまった彼は、次の瞬間、クラスの女子のボス格だった白坂さんから「那賀田ウゼー、キモい」と睨まれてしまった。「ステレオタイプな男の思い込みで女を定義するような考え方は好かない」というような意識だったのだろう。那賀田くんはバンドをやりたがっていたけれど周りに楽器をやりたい人がいない、という、ありがちな状況にいる音楽好きな男子で、お互いのiPod Mini(iPod nanoの前の機種。当時、ボクはこれを使っていた)に入れている曲のリストを見せあって話が盛り上がっていた時だったから、ボクとしては悪い気もした。それにしても、パソコンとかデジモノ(主に携帯用の電子機械のことを指す)関連の話をしようとすると注意書きが多くなってしまってかなわない上に、説明をいくら重ねてもそれで普通の人が分かるのか不安で仕方がない。説明というのは重ねれば重ねるだけ分かり易さからは遠ざかるものだ、というのは、インターネットの世界に浸かったこの一ヶ月ちょっとの間で、自然の理解に至った真理のひとつだ。たとえば、マカーの説明で、パソコンの種類を大きく二分しているウィンドウズとマッキントッシュというのは、本当はパソコンそのものの話ではなく(という言い方にも、ちょっと嘘があるかもしれない)、パソコンの中に詰まっているOS(オペレーティングシステム。パソコンを操作する為のソフト)の話なのだけれど,そこから始めようとすると延々と説明の為の説明を積み重ねることになってしまい、聞いている方の混乱もそれに乗じて増して行ってしまう。
 那賀田くんに言われた「女の子にしては激しい」が、どんなものだかと言うと、荒っぽいロックの方面で、夜中に大声で歌っていたミッシェル・ガン・エレファントなんかはまさにその典型であり、かなりのツボだ。「cult glass Stas」も「SABRINA HEAVEN」も現在、ボクのiPod nanoの中にきちんと入っているし、もちろん「ギヤ・ブルーズ」だって忘れていない。詩的で毒のある歌詞がいい。雄叫びをあげる力強いダミ声のボーカルがいい。白坂さんと那賀田くんのエピソードからも伺い知れる通り、そういった音楽をボクは中学の頃から好きだったわけで、不登校とか引きこもりとかを始めたために、鬱々として暴力的になったから好きになったというわけではない。不登校や引きこもりを始めてからのボクが、多少……いや時によってはかなり……鬱で暴力的になったのは、おそらくは事実だろうけれど。



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