Enoshima Baby!!
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■ web連載小説 江ノ島ベイビィ● 第2回

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「あの、大丈夫ですか?」
「大丈夫なわけないでしょっ。全部キミのせいだからねっ。私が階段落っこちたのも、ブラの中に砂入ってんのも、おかげで今日学校行けなくなったのも、全部全部、キミのせい」
 彼女は砂をはたき落としていた手を止め、涙目でヒステリックに叫びながら全てをボクのせいにする。もちろん、ボクのせいではない、はずだと思う。もししたらなにか複雑な経緯があって突き詰めたらボクのせいになってしまうのかもしれないけれど、本当にそうだったとしても困るし、実際の所は因縁つけられてるだけだと思う。
 手に握ったままだった携帯のディスプレイを跳ね上げて、彼女に訊いてみた。
「あの、救急車呼びましょうか?」
「いい。平気。変な所はどこも打ってないから」
「そう……ですか」
 平気という言葉を信じていいのか、分からない。けれど、これだけは言える。
 彼女とボクとは縁もゆかりもないただの他人だ。
 寄せ返す波音を何往復分か聞いた後、ボクは携帯をポケットにしまって、こう言った。
「あ。それじゃボク、これで……」
 笑顔で軽く一礼して階段を上がる。
「あっ、こらっ。なに逃げてんのよ、人に学校休ませといて」
 無視して階段を上がっていく。
「ちょっとこらっ、待てっ」
 ボクは自然に早足になった。追いかけてこられたら面倒だな。そう思ったからだ。
 自転車の鍵をかける音が背中に聞こえた。まずい、本当に追ってくる。危機感がボクの足を更に早める。
 護岸を上がると、道路があった。護岸の際に落下防止のための手すりがあって、狭い歩道があって、その横に車道だ。ボクは歩道の上を早足で歩き始めた。
「こら待てっボク女っ」
 彼女は追って来た。
 ボクがボク女ならお前はキミ女だろ、とか思いもしたけれど、この時点では、まだ聞き流すことにしていた。ケンカなんて無駄だ。してはいけない。
 ボクは護岸沿いの歩道を歩き続ける。彼女は砂の上をボクを追って売り言葉を吐き続けながら歩き続ける。
 やがて彼女は「ボクっ子なんて今時はやらないって言うのよ、可愛いとか思ってるわけ?」などと言い出すようになった。これには、さすがにムッときて、つい、
「もぅ、なにワケ分かんないことさっきからほざいてるかな。頭打ったんじゃないの? さっさと病院行けよ、キミ女」
 などと言い返してしまい、そうしたら彼女も更にムッとしたみたいで、倍の量言い返してくるようになった。
 そうこうしているうちに、お互いヒートアップし、ボクの
「いちいちウルサいんだよ、このウスラバカ」
 へと繋がるのだった。
 自分が今日、学校を休むことになったのはボクのせいだと、彼女はずいぶんと繰り返し怒鳴っていたけれど、考えるに、自転車で通学しようとしていたところを見ると彼女は地元だし、学校が始まるにはまだずいぶんと早い時間だったのだから、いったん家に帰ってシャワーをあびて着替えでもすれば、余裕でホームルームにでも間に合ったのではないかと思う。そうしなかったのは、多分、そもそも学校に行きたくはなかったからだ。そんな気はしていた。学校に行きたくないのを人のせいにしたい気持ちは、ひきこもりの不登校児として、なんとなく、分かる。それは分かっていたから、ムカついたのはやっぱり、一人称「ボク」を自意識過剰の賜物だとでも言うような言い方をしたことの方だったのだと思う。

続く…


次回予告

「え、えっと……その、葉月さん、朝はちゃんと起きましょう! そして夜に寝ましょう! そうしたらきっと、お父様もお母様も、怒らないと思いますです、ハイ……。でも、お父様も女の子殴っちゃダメだと思います、ハイっ」

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