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■ web連載小説 江ノ島ベイビィ● 第5回

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5 『Junior Sweet その2』

「さぁさぁ、山崎さん、こっちこっち」
 ロリコン店名が掲げられた看板を、少なからぬ嫌な汗で半ば唖然と見上げていたボクを呼ぶ、みささんの声が聞こえて、その声の方を向くと、どうやら従業員用っぽいドアがあって、ドアとドア枠との間にカラダを挟むようにして、彼女はこっちを見ていた。
 学校の防火扉の人間用小扉みたいな鉄の扉で、建物自体の壁の大人っぽい赤茶色に合うように小豆色に塗られていて、塗装が禿げた所は、ちょっと錆びている。
「どしたの? ほら、おいでよ」
 ボクを呼ぶみささんの爽やかな笑顔と、ドアの開き具合と言うか閉まり具合が怪しい。みささんは体で開いたドアの隙間を埋め、内部を見せないようにしているようにも見える。
 一見すると、シックで大人っぽいレストランだ。しかし、中もそうだとは限らない。小窓から少し見える限りでは、やっぱり中も割とシックで洒落た感じのレストランのような気もするけれど、安心は出来ない。もしかしたら、会員制倶楽部とかそんな感じで、ワイングラスを片方の手に、いたいけな子供をもう片方の手に、優雅で淫らな時間を愉しむとか、お金を持て余したエロじじいの人たちのニーズに合わせた内装をしているだけのことかもしれない。
 タマのしっぽがボクの足をくすぐった。
「ぅわ」
 低い声で驚いた。
 タマはボクの周りをくるくると回りだす。
「タマー、ちょっとその辺で待っててねー」
 ドア口から、みささんが言うと、タマは彼女の方を向いて勢い良くしっぽを振った。
 犬は可愛い。と言うか、タマは可愛い。癒される。
 これがグレイハウンドとかドーベルマンとかだったら、ボクは立ちすくんで身動きひとつ出来なくなっていたのだろうけれど、タマはゴールデンレトリバーだ。顔に愛嬌がある。動作にリズムがある。名前はふざけているけれど、それは別にタマのせいじゃない。
「あれ、雪野は?」
 周りを見回しても、壁際に自転車があるきりで、雪野自身の姿はない。
「ん? もう中。さっさと入れた。あいつ砂だらけだもん。さっさとシャワー浴びたいでしょ」
「なんかブラの中まで砂だらけとか言ってましたが……」
「んー……じゃあ、パンツはコンビニで買ってきてやっかなぁ……ブラはとりあえず家に帰るまではノーブラで我慢してもらって……ここの制服着てりゃパっと見、わかんないでしょ」
 それなんて羞恥プレイ? と、ちょこっと思ったけれど、言わないことにした。
 それよりも今のみささんの言葉の中の「ここの制服」という部分が気にかかる。すなわち、この店には店専用の制服があり、この店は女の子に制服を着せるような店なのだ。
 ちょっと焦った。しかし、もう一歩踏み込んで考えてみれば、普通のレストランにも大抵は制服がある。だから、聞き返してみることにした。
「制服?」
 みささんは眉間に皺を寄せて笑う。
「んふふ。かっわいー制服」
 可愛い制服!
 ボクの背筋にゾクリと冷たいものが走る。ボクの右足はぱたぱたとタマのしっぽではたかれる。
 一体、可愛い制服を着せられた女の子が、この店で客にどんな接客をするというのか。
「あっ、ボク……買ってきましょうか?」
「ん? いいよ。それより早く中、入んなよ」
「あ、いえ、でも」
「だって、山崎さんどこにコンビニあるかとか分かんないじゃん」
 そうだった。
 ボクにとっては未踏の地域へと既に入り込んでいたのだった。
 いや、そのままバッくれてしまうつもりだったのでコンビニの位置を知っていようが知らなかろうが本当は関係ないのだけれど、少なくともこの場を離れる理由は失われたのは確かだった。
 ボクの足をはたき続けるタマのしっぽに身を任せ、しばし考えた。
「それじゃあ、ちょっとだけ……」
 ボクが言うと、みささんは笑顔をボクに向けて
「ん。早くして。この扉、重くて疲れる」
 そう言った。



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