Enoshima Baby!!
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■ web連載小説 江ノ島ベイビィ● 第6回

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「はーい。そんじゃ次は山崎さーん」
 みささんがボクの方へと話を振った。
「あっ、はい」
 答えたボクの方へ、雪野の視線が降り注ぐ。
「ほい、パンツ」
 みささんがコンビニ袋から、パンツを取り出してボクに渡した。
「どうも、すみません」
「タオルは……シャワールームの戸棚のとこ漁ればあるから。……あ、雪野」
「はい?」
「着替える前の服とかは?」
「ああ、そうか……」
 雪野がシャワールームへ戻る。開け放したドアの奥、洗面所があり、緑色の脱衣籠に入っている、雪野の学校の制服が見えた。
 その中身を掴もうと腰を屈める雪野の姿に、みささんの声が被る。
「いつもは、私よりしっかりしてる子なんだけどね」
 ボクに向かって言ったらしい。
「しっかりしてる子は、自転車で回転しながら階段落ちして来たりしませんよ」
 しっかりしていてもいなくても関係ないような気もするけれど、階段落ちをするのは、どちらかと言えば、しっかりと言うよりはうっかりな人の役目のような気がする。うっかり雪野。今度なにか突っかかって来たら、そう言ってやろう。
「ん。だから、いつもの雪野じゃないって事だ」
 雪野が自分の服を掴んで戻って来て、みささんがソファから立ち上がった。
「下にトートバッグがあったから、持って来るよ。入れ物必要でしょ」
 雪野に向かって言って
「すみません」
 雪野がまた笑顔を作って謝る。
「というより、誰のですか?」
「さぁ……剣さんにしてはファンシーだったしな……。客の忘れ物じゃないの?」
「それ、使っちゃっていいんですか?」
「後で返却ヨロシク」
 そんなやりとりの後で、みささんは部屋を出て行った。
 部屋にはボクと雪野の二人になった。
 立ったままで横目でボクを見ている雪野に、ボクは
「まぁ、座れば?」
 と、着席を促す。
「言われなくても座るわよ」
 と、雪野はさっきまでみささんが座っていたソファに腰を下ろす。
「ていうか、キミってば一体何様? なに人の店ですっかりくつろいじゃってんのよ」
「うっさいなぁ、うっかり雪野のクセに」
 早速、使ってみると、雪野は思いっきり顔をしかめた。
「なによそれ?」
 それにしても、制服が可愛すぎる。
 出会いが砂まみれだったので、風呂上がりでキレイになった姿が一層、引き立っているのかもしれない。
 人形みたいだ。だからこそ、余計に膝のアザが生々しい。
「鉄道ファン読んでるし」
 じっと見つめてしまっているボクから目を逸らして雪野が言った。
「なんだよ。鉄道バカにすんなよ。日本の近代化は鉄道の発展と共にあったんだぞ?」
 適当な事を言ってしまったが、本当かどうかは知らない。でも歴史の教科書には日本で初めて鉄道が開通した日の記述があったような気がするから、嘘ではないだろうとは思う。
「なに? キミも鉄道オタク?」
「だったら?」
「女の子の趣味じゃないのよねー」
 そこで会話が途切れて、ボクはまた鉄道ファンに目を落とす。
 雪野はしばらく、ボクの方を見ていたような気がするけど、ボクがちらりと目を上げたときは、窓の方へと顔を向けていた。
 横顔がキレイだ。
 そこには憂い……というか、鬱が見て取れる。経験に照らし合わせて考えてみると、なにか別のことに気を捕われていて、その何かが自分では割とどうしようもないようなことの時、人間、こんな顔をする、と思う。
「なんだか知らないけど……」
「ん?」
 雪野がボクの方を向いた。
「学校、行きなよね」
 言ってしまってから、余計なことだという気がした。
 雪野は怒るでも、みささんとの会話の時にしたように微笑むでもなく、無感情に
「行くわよ」
 と、だけ言って、また窓へと顔を向けた。
 ボクは自分のことを思ってしまう。
 学校は、嫌いじゃなかった。と、今にしてみれば思う。
 人並みに行くのがメンドクサイという気持ちはあったけれど、友達もいたし、好きな男子とかもいたし、嫌ってほどじゃなかったのだ。
 好きな男の子と一緒の高校に通いたくて猛勉強したのも、他人から見れば『いい思い出』だ。実際、合格もしたんだし。
 けれど、それこそがボクの不幸の始まりで、そのマヌケで分不相応な努力こそがボクの愚行の最たる物だった。

続く…


次回予告

「てっ、鉄道をバカにしたらいけませんっ。……と思います、ハイ。いいじゃないですか……女の子がテツしていたって……。……私の出番……まだかな……」

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